生体分子化学研究室 / 研究内容
スピランラベル化部位を
有する核酸の合成
電子スピンを持った化合物は,NMRで常磁性緩和という現象を起こします。この現象を利用しますと,DNAやRNAの様な長い分子がタンパク質と相互作用するときに形成するマイナー中間体構造を観察できます。
Synthetic Communications, 2019, 49, 136-145
Tetrahedron, 2015, 70, 1095-1100.
ヌクレオシド構造内に
安定同位体を導入する
安定同位体は,放射線を出さない安定安全な原子であり,質量分析装置で容易に識別することができます。この性質を利用して,安定同位体をプローブとした診断薬を作っています。このとき,核酸代謝酵素を利用すると,非常に効率良くプローブ分子が合成できます。
Bioorganic & Medicinal Chemistry, 2015, 23, 6683-6688.
ジスルフィド結合とDNA
ジスルフィド結合は、タンパク質の三次元構造を保持するために必要不可欠な化学結合です。ジスルフィド結合の特徴として、酸化剤・還元剤という外部刺激で結合開裂が制御できるため、細胞内の抗酸化剤(ストレス耐性薬)としても働いています。
DNA二重らせん構造は、水素結合で相補鎖が識別されています。ここを、ジスルフィド結合に変化させました。一本鎖DNAの相補部位にチオベンゼンを塩基部位に有すヌクレオシドを導入すると、二つのチオール基は水中の溶存酸素で自動的にジスルフィド結合になり、水素結合より強固な二重鎖になることがわかりました。
Organic & Biomolecular Chemistry, 2012, 10, 7327-7333.
Tetrahedron, 2005, 61, 1723–1730.
二方向に水素結合を形成するピリミジンヌクレオシド
DNAは三重鎖を形成することができます。その組み合わせは,ピリミジン:プリン:ピリミジンの塩基の順番です。必ず中心にはプリン塩基が介在しています。この形を,ピリミジン塩基でも再現できないか?と考えました。すなわち、ピリミジン塩基を中心とした三重鎖DNAを作ることです。
ターゲットとしたのは、六員環で二方向に水素結合を形成すると考えられる(イミド結合部位が120°の角度で広がる)シアヌル酸です。シアヌル酸を塩基として有するヌクレオシドを合成し,アデニン:シアヌル酸:アデニンのトリアド(三つが水素結合して一組)が形成されて三重鎖を形成することを明らかにしました。
RSC Advances, 2020, 10, 22766-22774.
塩基部位を交換する酵素
核酸代謝酵素は、生体内のヌクレオシドの濃度バランスを保つために働いている酵素です。この酵素ですが、リン酸緩衝液中で塩基部位を遊離させ、塩基部分とデオキシリボース-1-リン酸を生成します。しかし、この酵素は、第三の基質として塩基アナログを共存させておくと、ヌクレオシドの塩基部分を付け替える触媒能を持っています。この酵素の基質特異性を調査することで、非天然ヌクレオシド合成が拡張できると期待しています。
Bioorganic & Medicinal Chemistry, 2008, 16, 3866–3870.
Chemistry Letters, 2006, 35, 232.
蛍光色素など巨大な官能基を
持った塩基のヌクレオシド化
核酸代謝酵素は,活性部位が広くポケットが酵素の奥に広がるというより、酵素表面に沿って存在しています。この特徴を活かせば、基質特異性を拡張できるかもしれません。これまで、巨大な官能基である蛍光色素をリンカーを介して持つ塩基が,核酸代謝酵素の気質になることを報告してきました。
Catalysis Science & Technology, 2019, 9, 5122–5129.
Organic & Biomolecular Chemistry, 2013, 11, 6900 - 6905
細胞を識別するプローブ分子
細胞には,特異的な膜酵素が存在します。その膜酵素と特異的に結合する阻害剤を利用すれば,細胞を特異的に検出する診断薬を作ることが出来る。当研究室では,小腸上皮細胞に存在するグルコシダーゼをターゲットとして,ノジリマイシンに光る部分を結合させて,細胞特異的に蛍光染色する診断薬を作りました。
Bioorganic Medicinal Chemistry, 2019, 27, 859-864.
Bioorganic & Medicinal Chemistry, 2017, 25, 773-778.